※本記事はガジェットに関する内容ではありません。ご興味のない方はお読み飛ばしください
※本記事はゲーム『乙女理論とその後の周辺』のネタバレを一部含みます。未プレイの方はご注意ください
ビジュアルノベルブランドNavelの新作、『乙女理論とその後の周辺』(以下、『その後』)をご紹介します。
※リンク先R-18注意
『月に寄り添う乙女の作法』(以下、『つり乙』)シリーズの4作目であり、シリーズ2作目『乙女理論とその周辺』(以下、『乙りろ』)の直接の続編となります。そのため、『つり乙』及び『乙りろ』は「プレイ必須」(公式)ということになっています。*1*2
『つり乙』のあらすじを簡単に説明しておきますと、服飾デザイナーを志す主人公(男)が、憧れのプロデザイナーが開いた東京の専門学校(女子校)に女装して潜入し、そこで様々な人と交際しながら、苦難を乗り越えていくというものです。『乙りろ』は『つり乙』から分岐したifストーリーということになっており、舞台をパリに移して、主人公は新たな登場人物たちと友情を育んでいきます。
内容
本作はStandard EditionとLimited Edition(LE)とが存在し、前者は本編ディスクのみ、後者は本編ディスクに加え『乙りろ』用アペンドディスク*3が付属します。LEは現在在庫限りです。その他、予約していた場合には各種特典が付属しました。ちなみに私が入手したのは、
- 小倉朝日デザイン原画者サイン色紙(早期予約特典)
- 小倉朝日ボイスドラマCD(店舗予約特典)
- エッテB2アクリルポスター(同上)
- 桜小路ルナ抱き枕カバー(同上)
です。
本編
『乙りろ』のヒロインの1人、エッテのアナザールート*4と、『乙りろ』のりそなルート/メリルルート及びエッテアナザールートそれぞれのアフターストーリーという4本立てです。*5
なぜエッテだけアナザールートがあるかというと、『乙りろ』での個別ルートのボリュームが[りそな>メリル>>>>>エッテ]と、明らかにエッテルートが数合わせのための手抜き仕事になっていたため、エッテファンへの救済と思われます。
各ルート雑感
エッテアナザー
エッテアナザーに関して述べる前に、エッテルートについて軽く触れておきます。
『乙りろ』りそなルートは、主人公遊星が妹りそなの傍らで共に戦い成長する物語であると共に、2人の兄衣遠の内心に迫る「三きょうだいルート」でもあり、その中で3人が属する大蔵家のお家事情が『つり乙』でのぼんやりとしたものより相当深く掘り下げられて描かれ、かつ主人公たちの前に立ちはだかる困難として大きな要素になっています。また、若干フォーカスが甘めではありますが、メリルルートでも重要要素のひとつであることは変わりません。この2ルートにおいては、主人公とヒロインが恋に落ちる過程も、こうした困難に共に立ち向かう中で自然と芽生えたものとして違和感のないものになっています。*6
しかしながら、エッテルートだけは、この2点が非常におざなりなものとなっており、「エッテが遊星を好きになるのは遊星の女装を見抜いて男の体に興味を持ったから」「一族の問題は旧貴族の一人娘とくっついたから解決」と、お世辞にも高評価をつけることはできません。はっきり言ってしまえばはずれルート(リンデルート、ヴァリールート、黒執事ルート)と同じくらいにしかライターが力を入れていないんじゃないかと勘ぐってしまうほどです。ライターの意気込みが伝わってこない
これに関してはユーザーからの声も大きかったのか、今回アナザールートを収録することで評判の回復を図ったのではないかと思われます。
さて、エッテアナザーですが(大きくネタバレしないように所々ぼかして書いていきます)、物語はやはりふとした拍子にエッテが遊星の女装を見抜いてしまうところからスタートします。エッテは遊星を許し、改めて友達になってくれるのですが、大蔵家本家から遊星を連れ戻すべく追跡の手が伸びてきて、遊星は一時的にもパリを離れる決断をします。
今回のエッテは可愛らしい乙女らしさ全開で、遊星を好きになる理由も「以前好きだった人と同じ清らかさを遊星の内面に見たから」というそれらしいものになっていて、ようやく正統なヒロインになれたな、という印象です。お互いの気持ちを確かめつつもそばにいられない、しかし離れていても遊星の戦いを全力でサポートする……本当にいじらしい。
また、りそなルート/メリルルートで衣遠やスルガの人物像にも同時にスポットが当てられていたのと対照的に、いいところのなかったアンソニーについても、エッテアナザーでは活躍の機会が与えられています。こちらも注目です。
総じて、エッテというヒロイン1人のルートとしても、『乙りろ』という物語全体を織り成す一部としても、高い完成度でまとまっていると言えるのではないでしょうか。ただ、本来ならば『乙りろ』に収録されているべきだったルートであることには変わりなく、物語のクオリティが高い分そこは余計に残念に感じられます。
りそなアフター
タイトル→アフターからヒロインを直接選んで読み始めることができます。3キャラとも、分量的には『つり乙』各ヒロインのアフターと同程度です。遊星とりそな、2人の夢も、学校における戦いも、一族の問題も解決した後の話なので、約束されたハッピーエンドというか、割と安心して読んでいられます。ストーリー中ではりそなは割と大変な目に会うのですが……まあここまでの苦労に比べれば、言うほどの難題でもなかったという感じですね。
個人的に面白かったのは遊星に強く当たっていたあるキャラが見事に手のひらを返して接しているシーンでしょうか。
メリルアフター
メリルルートの時とは立場が大きく変わってしまい、周囲も(エッテなど友人たちは別ですが)今までの態度は何だったんだというような接し方をしてくる中、とまどうメリル……という話のはずなのですが、個人的にはHシーンに笑わされてしまってそちらの方が印象に残ってしまっています。なぜ遊星とメリルの性事情が周囲に筒抜けなのでしょうか。遊星には同情の意を禁じえません。
このアフターに限った話ではありませんが、このシリーズはHシーンが絶望的に抜けないので、それを目当てにはしない方がいいと思います。
ちなみに、教室の中に潜む「悪意」に関しては、りそなルートとりそなアフター以外ではその正体が明らかになっていない設定なので、その人が何食わぬ顔で会話に混ざっているのを見ると少しむずむずしますね……。
エッテアフター
エッテアナザーを読み終えた後、選択できるようになります。エッテルートではなくエッテアナザーの後日談です。他のヒロインと異なりお家騒動はきれいに解決したというわけではないことと、エッテの両親に遊星をどう紹介するか*7ということが目下の問題です。
これに加えて、好きだった兄に恋人ができて、複雑な心境の妹のケアも遊星はしなければなりません。劇中でりそなが遊星に対しここまできつく言うのは珍しいですね。
エッテアナザー及びエッテアフターにおいては、メリルの身の上については、全く明らかになっていないようです。
ところで、エッテもそうなのですがなぜこの作品のヒロインはやたらと尿道やら肛門やらを責めたがるのでしょうか。正直そちらの趣味がない者としては股間と心臓に悪いだけなのでやめてほしいのですが……。
総評
エッテアナザーも各アフターも、それぞれ物語としては非常によかったと拍手を送りたいのですが、すでに述べたようにエッテアナザーこそが本来のエッテルートあるべきだったわけですし、アフターストーリーも『つり乙』のときは『乙りろ』LE特典として付属していたことと、ここまで延期されたことを考えると、この構成で8,800円というのは少し腑に落ちないところ。*8特典がボリューミーだったこともあり、「本編の方がおまけ」という感すらあります。特典まで含めれば値段相応かそれ以上の内容かなという感じですが、それがないとあまり人にはおすすめできません。
ただ、『乙りろ』好きな自分としては、作中の雰囲気*9はとても幸せな気分に浸れるものだったし、久しぶりに『つり乙』ヒロインたちの声が聞けたのも嬉しかったので、買ってよかったなとは思っています。
少し要望を言わせてもらうと、『乙りろ』と『その後』で別のゲームにするのではなく、『乙りろ』のパッチディスクということにして、『乙りろ』からエッテアナザーへ分岐するようにしてもよかったのではないかな、と思いました。それと、本当に個人的な意見ですが、新キャラであるカリンのビジュアルがストライクだったので、リンデルート程度にでも彼女のルートが欲しかったです。アンケートには書こうと思います。
版画展示販売会なるイベントが開催されているようです。
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*1:いずれもいわゆるフルプライス
*2:ちなみに、この『その後』と、3作目『月に寄り添う乙女の作法2』(以下『つり乙2』)とは、それぞれ異なる未来が描かれたものなので、『その後』の方に『つり乙2』のネタバレは存在せず、『つり乙2』が未プレイでも『その後』のプレイには問題ありません
*3:発売時はボイスなしだった主人公小倉朝日(大蔵遊星)のボイスパッチ(CVは『つり乙』と同じ月乃和留都)。ちなみに『その後』についても公開中の修正パッチ1.1の適用でボイスが追加
*4:『乙りろ』での個別ルート分岐直前から物語が始まり、ルート内の分岐はなし
*5:このため、厳密に言えば「ゲーム」ではありません
*6:りそなは元々遊星に兄妹愛(家族愛)を超えた感情を抱いていたのですがそれは置いておいて
*7:パリにおいては朝日として過ごさなければならないが、当然その格好で挨拶に行くわけにはいかない
*8:ファンディスクなんだから当然だろ、と言われればそれまでなのですが
*9:『つり乙2』では感じられなくなってしまった輝かしい時間